隠された気持ちだからこそ
恋文とは本来、宛てられた人以外が見ることの出来ないものです。
当人同士でかわされる愛の言葉はこちらが思わず赤面してしまうようなものや、逆に悲痛なほどのものなど様々。
今回は有名どころをあえて外して、これまでネット上で見られなかった他の文豪・偉人たちのラブレターをご紹介します。
【一】徳冨蘆花
代表作:「不如帰」「自然と人生」
妻である徳冨愛子へ
一九〇六年七月二日小生も考えうる所あり欧米漫遊を見合わせて西比利亞(シベリア)鉄道にて帰ることに決しぬ不日当家にも長子の結婚式ありて来客多くある故 両三日中には出発いたす可く早ければ七月下旬晩くも八月上旬には神許し玉わば帰着可致候 躰を大事に待ち玉え吾妻 健次郎出典:
個人的に好きでピックアップしたこの恋文。
事務的な連絡の最後にある「躰を大事に待ち玉え吾妻」という一文になぜだか心惹かれます。
【二】若山牧水
代表作:「海の声」「独り歌へる」
石井貞子へ
石井さん、今夜は私は何だか恐ろしく興奮していますので、先ずそれを断っておいてこの手紙を書きます、(中略)出来得れば私はあなたに恋したい、あらゆるこの胸中の不安苦悶を悉くあなたのお胸に投げ入れて、私自身をも投げ入れて、そして静かに永(とこ)しえに死んで行ってしまいたい、(中略)不思議ではありませんか、丁度またおたよりが参りましたよ、「かもめ」の歌のおたより、私は再三接吻致しました、お許しくださいまし、(中略)眼をとじて海をおもい渚を思い松を思いあなたを思う、まことにたえがたくなつかしく恋しい、恋人でもいい、姉さまでもいい、とにかくそんなものになって下さい、真面目でおねがいします安房の国海のほとりの松かげに病みたまふぞとけふも思ひぬもう古い歌です、かもめどりのお歌はまことに素敵です、言いしらぬ静かさが全身を包みます、歌の底にあなたがよく見えます、だからあなたに逢ったような気がします、もう筆を擱きましょう、まことに失礼なことのみ書きました、どうぞ許して下さい、戯談などでいうのでなく真剣で言ってるのですさようなら、さようなら、三月三日夜 繁石井てい様出典:
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