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無骨ながら艶っぽい…恋したくなる【司馬遼太郎】作品の名シーン

無骨ながら艶っぽい…恋したくなる【司馬遼太郎】作品の名シーン

恋活
yukino
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2015.08.12

さて、こちらは長州の英雄、高杉晋作のお話です。彼は妓楼で遊女と遊ぶのが大層好きで元来性欲の強い男でしたが、父親の巧妙にのせられ妻を娶ります。相手はお雅という、美しい女性でした。しかし、遊女しか女を知らない晋作が、初めてお雅と交わった夜は勝手が違ったようです。

晋作は夜半に目がさめた。(……たれだろう)と、横の暖かみへ手がうごいた。ふと錯覚したのは妓楼にいる自分だったが、やがてそこにねむっているのは、お雅のかさのひくい、小柄な肉体であることに気づいた。お雅は片頬を晋作の胸に寄せるようにして寝息をたてている。その寝姿がどこかかぼそげで、こののちの生涯をひたすら晋作にたよって生きざるをえない哀しみのようなものが匂い出ている。妓楼のおんなには、それがない。(どうも、勝手が違う)晋作は、当惑する思いでいる。【中略】客である晋作と彼女たちのあいだには契約は会っても人生の課題がなかったからにちがいない。お雅にはそれがどうしようもなく匂っている。そのお雅の儚さが、晋作の感情を奇妙にした。可愛さを感じた。【中略】晋作は、手をうごかした。お雅が、濡れている。「おきていたのか」と、晋作は地声でいった。お雅はうなずき、「さっきから」と、ささやいた。「そとは、雪ではないか」雨戸が、鳴っている。

本書にはこれ以上に濃厚な二人の時間というのは描かれていません。

ふたりが夫婦として過ごした時間はほんのわずかで、そのほとんどは晋作が外で過ごし、藩士から逃げまわったり武器を集めたりして、お雅は晋作の家で彼の家族と暮らしていたからです。

晋作はあらゆる女を抱いてきましたが、ここで初めて妓楼の女ではない、生身のお雅を知るのです。

こう寄り添う男女は美しいものですが、それもはかなきこと。

晋作はこのお雅に対する感情を"煩悩"と呼び、その"煩悩"は自分の宿命を生まれてすぐ悟ったようなこのお人に「お雅は敵である」とまで思わしめるようになったのです。

「燃えよ剣(上)」

こちらはかの新選組鬼の副長と呼ばれた土方歳三を主人公に据えた物語です。

ここでは女をいくつも経験したものの、気位も家柄も良い女にしか興味を抱かない土方像が描かれています。かつて、まだ武州で薬を売っていた頃、祭りで出会った佐絵という神主の娘と一夜を過ごしました。

そしてその女性が京の九条家へ屋敷奉行へ行き別れ、京都で再び縁あって再会します。

佐絵は、おくれ髪をなでつけた。「おれのどこが変わった」「全体に」「わかるように云ってくれ」「あのころ、私どもの情事(なか)は、犬ころがじゃれあっているように楽しゅうございました。土方さまも、いえ歳さんも、犬ころみたいに無邪気だった。いまはちがいます」「どこが?」佐絵にも、わかるまい。歳三にもわからぬことだった。【中略】歳三は、佐絵をみた。「御亭主は、長州人ではないのかね」佐絵の顔色がかわった。「逢わぬほうがよかった」歳三は、笑った。「きょうのことは、忘れます。――佐絵どのも」忘れてくれ、と立ちあがった。

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