なるほど確かに恋しい人への思慕を思わせるこの歌は、願掛けにはぴったりかもしれません。
【三首目】わびぬれば 今はた同じ 難波なる みをつくしても あはむとぞ思ふ
【訳】これほどまでに悩みぬいた末にたどり着くのは、死んでもいいからあなたに一目会いたいという気持ちだけだった
最後の「みをつくしてもあはむとぞ思ふ」というところに思いが凝縮されていますね。
今よりももっと、忍ぶべき恋も会えなくなる恋も多かった当時は、恋しい人への恋慕を一人抱え続けることも多かったでしょう。
身を焼くような恋、というとロマンチックに聞こえるかもしれませんが、当時の人はそれを恋の楽しみだと思うゆとりすらないほど愛に愚直だったのかもしれません。
もちろん愚直とは、美しい意味でです。
【四首目】あさぢふの 小野のしの原 忍ぶれど あまりてなどか 人の恋しき
【訳】この恋慕を隠しているつもりなのに、どうして溢れてしまいそうになるのだろう。それほどまでにあの人が恋しいからか
こちらは特定の相手のいるいわゆるラブレターです。
先述したようにこちらは忍ぶ恋であり、誰に打ち明けることも叶いません。
風に揺れる茅萱の情景を眼前に浮かばせる句の工夫が素敵ですね。
こらえてもこらえきれず溢れだしてしまう恋情とは、一体どれほどのものなのでしょう。
一度でいいからそんな恋をしてみたいな、と考えてしまいますね。
【五首目】君がため をしからざりし 命さへ ながくもがなと 思ひけるかな
【訳】あなたのためと思えば惜しくもなかったこの命でさえ、逢瀬がかなった今となっては、もっと永らえてあなたと長く共にありたいと思うようになってしまった
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